※)これは”チラ裏”レビューです。あまり十分な推敲もしておらず、本来はチラシの裏にでも書いて捨てるレベルの駄文ですが、ここに書いて捨てさせていただいております。この先は期待値をぐっと下げて、寛容な気持ちでお読みください。ではどうぞ。
作品名:キングダム (漫画 2006年〜)(既刊73巻)
評価:★4(★★★★☆)
リンク:https://www.amazon.co.jp/dp/B07GX5ZWRX
漫画「キングダム」を久しぶりに再読した。2024年12月現在の最新刊は73巻だが、とりあえず手元にあった46巻まで読んだ。呂不韋との戦いの決着が20巻くらいのイメージだったのだが、実際は40巻だった。戦場での戦いの描写が丁寧なのでとにかく長い。
5人や10人単位で兵士がユニットを組む「伍」や「什」、兵団の動かし方などの戦術までも丁寧に描写する漫画は珍しいので勉強になるし面白いのだが、内容の8割が戦争なので読んでいるととても疲れる。40巻で呂不韋との戦いの決着してからは、戦争描写は読み飛ばして政治闘争の描写だけを読むことにした。邪道な読み方だが個人的にはこうするとスピード感があってまだ楽しく読める。
主人公は「天下の大将軍」を目指す李信と、「中華統一してこの世から戦争を無くす」を目指す嬴政(秦の始皇帝)なのだが、このふたりの気持ちには全然共感できない。自分や仲間の命を危険に晒して相手の兵士を殺しまくる「大将軍」の何が魅力なのか分からないし、「中華統一」も要は侵略戦争なわけだから。
そう、侵略戦争。2024年現在で言えば、プーチンがウクライナ侵攻したり、習近平の中国共産党がチベットやウイグルを無理やり支配しているのと同じ。漫画の中ではそれっぽい理屈で正当化しているから多くの人はこの主人公のふたりに入れ込んで読むのだと思うが、私はそういう読み方はできなかった。
だから、40巻で呂不韋と嬴政が天下(政治)について討論するシーンは見ものだった。呂不韋が「経済」政策で国を豊かにすると語ったのに対し、嬴政は「人の本質は光だ」などと訳のわからない事を言いながら、また結局「武力で中華統一して戦争をなくす」と目標を語った。私には呂不韋の語った内容の方が圧倒的に魅力的だったのだが、漫画の中ではなんとなくいい事を言った感じの嬴政の勝利みたいな雰囲気になっていて困惑した。呂不韋はここで敗退していったが、私の中では大きな爪痕を残したし、今後も”中華統一”の侵略戦争を嬴政がどのように正当化して語ってくれるのか、そしてそこにある隠しきれない矛盾を観察することが、この漫画を読む一番の楽しみだ。
44巻で味方の秦の将軍・桓騎が残虐な手段を用いたことに憤った信と羌瘣が桓騎兵を殺害し、桓騎陣営に殴り込みに行くシーンがあるのだが、これも信の「大将軍になりたい」という夢がいかに綺麗事で矛盾をはらんだものなのかということが浮き彫りになっていて興奮した。
45巻では嬴政が斉王に「多種多様な文化・風習・信仰、これほど複雑に分かれる中華の全人民をどう同じ方向に向かせる?」と問われ、「人ではなく法による支配によって平和と平等の法治国家とし、現七国の民は上下なく共に一丸となって自分達の新しい国の形成へと向かうのだ」と答えた。ん〜まあ、なるほど。
45巻の斉王との密談のあと、続いて趙の李牧から「七国同盟:他国との戦争を一切禁じる盟約を結び、無益な血を流さずに中華から戦をなくす」を提案されたものの、せっかくの和平案を「そんなものでは戦は無くならぬ!」と無碍もなく却下する嬴政。いや、もうちょっと考えたらどうなんだ笑。しかし、この漫画の真骨頂はむしろその後のシーン。会議場の外で秦国の接待を受ける斉王が料理長に問う「この美味い料理は秦の米と秦の肉と秦の野菜で作られた。もし明日よりこれを趙の米・趙の肉・趙の野菜と呼ばねばならぬとしたらどうだ」料理長は答える「それは…許し難き事です」。こういうシーンを入れてくるからキングダムは面白い。
46巻、「法によって国を治めるとはどういうことか」教えを請う昌文君に対して秦国で一番の法家の権威・李斯は答える「六国はそれぞれ文化形成が異なる。それぞれに文字も違えば秤も違う、貨幣も違えば思想も違う。本当の法治国家にするならば”法”と”思想”の戦い、”法家”と”儒家”の戦いが勃発する」「とにかく中華を治める法とはこれほどにバラバラの異文化を持つ六国の人間たちを一つにするものでなければならぬ」「法とは、国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ」おお…これは…マジで盛り上がって来たぞ…!しかし、この李斯の言葉にも他国侵略の罪深さが表れていると思う。だって、本来は同じ文化集団の国民があって、その結束を高めるために、”国民が”国民に望む人間の在り方を法にするべきなわけで。李斯の言葉は他国侵略を前提にしているから国民の上に国家が来てしまっている。
この漫画は「中華統一」の功罪両面を全力で描こうとしている。だから面白い。