※)これは”チラ裏”レビューです。あまり十分な推敲もしておらず、本来はチラシの裏にでも書いて捨てるレベルの駄文ですが、ここに書いて捨てさせていただいております。この先は期待値をぐっと下げて、寛容な気持ちでお読みください。ではどうぞ。
作品名:キングダム/原泰久 (漫画 2006年〜)(既刊74巻)
評価:★4(★★★★☆)
リンク:https://www.amazon.co.jp/dp/B07GX5ZWRX
漫画「キングダム」を久しぶりに再読した。呂不韋との戦いの決着が20巻くらいのイメージだったのだが、実際は40巻だった。戦場での戦いの描写が丁寧なのでとにかく長い。
5人や10人単位で兵士がユニットを組む「伍」や「什」、兵団の動かし方などの戦術までも丁寧に描写する漫画は珍しいので勉強になるし面白いのだが、内容の8割が戦争なので読んでいるととても疲れる。40巻で呂不韋との戦いの決着してからは、戦争描写は飛ばし気味に読んで政治闘争の描写を中心に読むことにした。邪道な読み方だが個人的にはこうするとスピード感があってまだ楽しく読める。
主人公は「天下の大将軍」を目指す信と、「中華統一してこの世から戦争を無くす」を目指す嬴政(秦の始皇帝)なのだが、このふたりの気持ちには全然共感できない。自分や仲間の命を危険に晒して相手の兵士を殺しまくる「大将軍」の何が魅力なのか分からないし、「中華統一」も要は侵略戦争なわけだから。
そう、侵略戦争。2024年現在で言えば、プーチンがウクライナ侵攻したり、習近平の中国共産党がチベットやウイグルを無理やり支配しているのと同じ。漫画の中ではそれっぽい理屈で正当化しているから多くの人はこの主人公のふたりに入れ込んで読むのだと思うが、私はそういう読み方はできなかった。
だから、40巻で呂不韋と嬴政が天下(政治)について討論するシーンは見ものだった。呂不韋が「経済」政策で国を豊かにすると語ったのに対し、嬴政は「人の本質は光だ」などと訳のわからない事を言いながら、また結局「武力で中華統一して戦争をなくす」と目標を語った。私には呂不韋の語った内容の方が圧倒的に魅力的だったのだが、漫画の中ではなんとなくいい事を言った感じの嬴政の勝利みたいな雰囲気になっていて困惑した。呂不韋はここで敗退していったが、私の中では大きな爪痕を残したし、今後も”中華統一”の侵略戦争を嬴政がどのように正当化して語ってくれるのか、そしてそこにある隠しきれない矛盾を観察することが、この漫画を読む一番の楽しみだ。
44巻で味方の秦の将軍・桓騎が残虐な手段を用いたことに憤った信と羌瘣が桓騎兵を殺害し、桓騎陣営に殴り込みに行くシーンがあるのだが、これも信の「大将軍になりたい」という夢がいかに綺麗事で矛盾をはらんだものなのかということが浮き彫りになっていて興奮した。
45巻では嬴政が斉王に「多種多様な文化・風習・信仰、これほど複雑に分かれる中華の全人民をどう同じ方向に向かせる?」と問われ、「人ではなく法による支配によって平和と平等の法治国家とし、現七国の民は上下なく共に一丸となって自分達の新しい国の形成へと向かうのだ」と答えた。ん〜まあ、なるほど。
45巻の斉王との密談のあと、続いて趙の李牧から「七国同盟:他国との戦争を一切禁じる盟約を結び、無益な血を流さずに中華から戦をなくす」を提案されたものの、せっかくの和平案を「そんなものでは戦は無くならぬ!」と無碍もなく却下する嬴政。いや、もうちょっと考えたらどうなんだ笑。しかし、この漫画の真骨頂はむしろその後のシーン。会議場の外で秦国の接待を受ける斉王が料理長に問う「この美味い料理は秦の米と秦の肉と秦の野菜で作られた。もし明日よりこれを趙の米・趙の肉・趙の野菜と呼ばねばならぬとしたらどうだ」料理長は答える「それは…許し難き事です」。こういうシーンを入れてくるからキングダムは面白い。
46巻、「法によって国を治めるとはどういうことか」教えを請う昌文君に対して秦国で一番の法家の権威・李斯は答える「六国はそれぞれ文化形成が異なる。それぞれに文字も違えば秤も違う、貨幣も違えば思想も違う。本当の法治国家にするならば”法”と”思想”の戦い、”法家”と”儒家”の戦いが勃発する」「とにかく中華を治める法とはこれほどにバラバラの異文化を持つ六国の人間たちを一つにするものでなければならぬ」「法とは、国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ」おお…これは…マジで盛り上がって来たぞ…!しかし、この李斯の言葉にも他国侵略の罪深さが表れていると思う。だって、本来は同じ文化集団の国民があって、その結束を高めるために、”国民が”国民に望む人間の在り方を法にするべきなわけで。李斯の言葉は他国侵略を前提にしているから国民の上に国家が来てしまっている。
この漫画は「中華統一」の功罪両面を全力で描こうとしている。だから面白い。
【追記:59巻まで読了】
46巻からスタートした「鄴攻略編」59巻の半ばでようやく終結。59巻の作者コメントで作者自身も「14巻分??(汗)」と驚いているが、読んでいても本当に疲れるのでもう少しコンパクトにまとめて欲しかった。正直、戦争描写を読んでも敵を討ち倒す興奮よりも人が大量に死んでいく戦争の愚かしさを感じるばかりで全然楽しくない。まあ、それがこの漫画の持ち味とも言えるのだが。
「鄴攻略編」の一番の見どころは、58巻でなぜか(特に致命傷を負っているわけでもないのに)信が死にかけて、羌瘣が信の心の中に潜って行って自分の寿命の長さと引き換えにして生き返らせるシーン。生気を失った顔の信は「まだ(漂との)夢だった天下の大将軍になってねえ」と気づいてひょっこりと生き返る。この時期(58巻の初版は2020年6月)、作者の原泰久は小島瑠璃子や他のアイドルとの不倫の末に離婚していて、このあたりの自身の個人的な心象が反映されているんだろうなぁと思った。ちなみに小島瑠璃子はテレビ番組の企画で羌瘣のコスプレを披露していて顔がそっくり笑。
・2019年、小島瑠璃子と交際開始?(並行して他のアイドルAさんとも不倫していた模様)
・2020年3月、離婚成立
・2021年6月、小島瑠璃子と破局報道
【追記:73巻まで読了】
60巻。私の大好きな呂不韋が再登場。「嫪毐反乱の折の雍 -蘄年宮- での二人の舌戦は、あれは本当に私の負けだったのでしょうか?よくよく考えるとやはり私の言ったことのほうが正しいと思うのですが」という名言(笑)を残して退場していった。
61巻。秦魏同盟による対楚戦争は単行本1冊くらいのボリュームであっさり終了。戦争描写をしつこいくらい丁寧にやるキングダムでは珍しいことだが、信がいない戦線はこのくらいあっさり(というほどあっさりでもないが)描くのが方針なのか。
62-64巻で武城・平陽攻略戦が終わり、その戦争の中で桓騎が投降した趙の兵士10万人を処刑したことをめぐる嬴政と桓騎の問答が描かれる。
桓騎は問う「虐殺云々の前に、他人の土地に侵略し殺して奪ってその上でその連中とひとつになれると本気でそう思ってんのか?」
嬴政「そうだ」
桓騎「お前は人に期待しすぎだ、秦王よ」
嬴政「ああその通りだ。それのどこが悪い。俺は期待し信じるがゆえに苦難にして最短の道を強引に走り抜けようとしている戦国の王だ」
相変わらず嬴政の言葉には説得力がない。これだけの殺人と文化侵略を伴う「中華統一」の動機の説明として、「人を信じる」の一言で足りる訳がないのだが。
そのあと嬴政は信に会い、この二人の問答が始まるのだが、
信「いよいよ難しい戦いに入っていくと思うが俺たちはやり切ってみせる。桓騎みてぇに暴走なんてすることなくなぁ」
相変わらず信は呑気というか、何も考えてないというか…大した動機もないのにこんなにも多くの人が死ぬ戦争を続けられるのがすごい笑。
(65巻 - 69巻)は秦趙宜安決戦。戦争描写はとっくに飽きてしまったが、67〜69巻は散発的に桓騎の過去が描かれるのがアツい。とりあえず桓騎語録を置いとく。
桓騎「おまえら(桓騎一家)はクソ中のクソだ。だが、引いて見りゃその他の連中もそんなに変わらねぇクソどもだ。この世界はただのクソの吹き溜まりだ。その中で俺はただ好き勝手やって出くわしたムカつく奴をぶっ飛ばし続けてきただけだ。俺は失敗しねぇ。俺の言う通りにしていれば全部上手くいく。分かったらお前らとことんついて来いよ」
桓騎「(秦王と李牧)お前らはそれぞれ勝手な理想や願いを求めて戦ってるんだろうが、互いに剣を手にしている限り下の奴らの血を流し続けるだけでお前らは絶対にどこにもたどりつかねぇ。永久にやってろザコどもが」
桓騎は、上から目線の他の王や将軍たちと違って、一兵卒と同じ「下から目線」のキャラだったと思う。つまりはヤンキー気質。であるなら秦の将軍なんかにならず、悪党のリーダーとか、せいぜい小国の領主に留まっていれば良かったのに。そこがキャラとして矛盾していると思う。王や将軍たちの戦争に入ってきて、負ける寸前になって「永久にやってろザコどもが」はちょっとな〜…。でもビジュアルも相まってカッコいいし、桓騎の過去編から戦死までは久々に「キングダム」が面白いと感じた。
70巻では韓非子が登場して、あっという間に退場。韓非子と信の問答。
韓非子「人間の本質は善か悪か」
信「善悪なんて視点を変えれば入れ替わることもあるし、そいつの中で考えが変わることもある。そんなあやふやなもんより誰もが必ず持ってる命の火、思いの火、”火”こそが人間の本質じゃないのか」
それなりによくできた問答だが、なんかお茶を濁された感じ…。嬴政と韓非子の問答が描かれなかったのも不満だ。李斯と韓非子が幼馴染のため、李斯の幼少期のエピソードが見れたのは良かった。李斯は威厳のあるキャラだと思っていたのに、不器用・ブサイクな非モテキャラだったとは笑。
(70巻 - 73巻)は秦趙番吾決戦。二連敗…李牧は強いな〜。
74巻ではついに対韓攻略戦が始まり、無血開城した韓の都市・南陽の統治の話が描かれる。これはなかなか見応えがあった。秦の厳格な法による統治を持ち込まれて南陽の民は警戒するが、秦兵も法の下では平等に裁かれるというのを見て南陽の民の態度が軟化していくというエピソードはよかった。嬴政よりも前の時代に秦国を法家思想で改革をした商鞅が亡命しようとしたとき、自分の定めた法によって捕まったという有名なエピソードがあるが、それを参考にしたのだろうか。
この南陽のエピソードは、「キングダム」全体を通しても今後の流れを決定づけたとも感じている。なぜなら、今まで嬴政の「中華統一」の肯定する要素は、「ひとつの国になれば戦争がなくなる」ということしかなかったところに、秦が侵略・併合した国の民が結果的に幸せになる可能性を示したから。極端な話、これから韓・趙・魏・楚・燕・斉と六国を滅ぼして併合していくときに、同じように「みんな秦国に併合されて幸せになりました」とすることも可能だ。
個人的には侵略戦争を美化して欲しくないから、負の側面をこれからじゃんじゃん描いて、嬴政も信も闇堕ちするところまでやって欲しい笑。